
日本フェミニストカウンセリング学会 第24回全国大会 in 福岡
分科会「困難女性支援におけるフェミニストカウンセリングの役割」報告
令和8年5月24日、日本フェミニストカウンセリング学会第24回全国大会in福岡
午前の分科会「困難女性支援におけるフェミニストカウンセリングの役割」に参加しました。
本分科会では、厚生労働省社会・援護局女性支援室女性支援専門官の池田恭子氏をはじめ、内閣府男女共同参画局や現場のフェミニストカウンセラーらが登壇し、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(女性支援法)」の概要や、現場における支援の実態、官民連携のあり方等について報告が行われました。
まず、「なぜ女性支援法が必要なのか」について説明がありました。女性は妊娠、性暴力、DV、賃金格差、家庭内での役割負担など、性差に起因する困難に直面しやすく、それらが複雑に重なり合うことで、単独の制度や一時的支援だけでは解決が難しい状況に置かれることが多いとのことでした。
特に印象的だったのは、表面化している課題の背後に、幼少期からの虐待経験、貧困、家族関係、精神的不調、トラウマ等、見えにくい困難が複雑に存在しているという説明でした。支援現場では「今起きている問題」だけでなく、その背景にある長年の生きづらさや社会構造にも目を向ける必要性が示されました。
また、女性支援事業の概要について、都道府県ごとに設置される女性相談支援センターや女性自立支援施設、民間シェルター等との連携体制が紹介されました。一方で、自治体によって支援体制や人材配置に大きな差があること、民間団体への依存度が高い地域も存在することなど、地域間格差も課題として挙げられました。
法制度の沿革については、従来の「売春防止法」に基づく婦人保護事業から、令和6年4月施行の「女性支援法」へと大きく転換した経緯が説明されました。これまでの“保護”中心の考え方から、「女性の福祉」「人権の尊重」「男女平等」を基本理念に据えた支援へ移行した点は重要であると感じました。
さらに、女性支援法では、行政だけでなく民間団体との協働が制度上明確に位置付けられていることも特徴として挙げられました。現場の支援者は、訪問・同行・居場所支援・SNS相談など、行政だけでは届きにくい支援を担っており、実践的なノウハウを蓄積しています。都道府県は広域的・専門的役割、市町村は最前線の相談窓口、民間団体は伴走型支援を担うなど、それぞれの役割分担の整理も示されました。
相談内容の統計では、「夫等からの暴力」が全体の42.8%を占め最も多く、子ども・親族からの暴力、交際相手からの暴力を含めると、暴力被害に関する相談が過半数を超える状況でした。また、DV相談の背景には生活困窮、住居不安、医療、子育て、対人関係など複数の問題が重なっているケースが多く、「単独課題」として切り分けられない現実が示されていました。
分科会を通じ、女性支援は単なる福祉施策ではなく、暴力、貧困、孤立、精神的ケア、人権保障などを包括的に捉える必要があることを改めて実感しました。また、制度整備だけではなく、支援者の専門性確保や、地域ごとの支援格差をどう埋めるかが今後の重要な課題であると感じました。
蕨市においても、DVや生活困窮、精神的不調など複合的課題を抱える女性への相談支援体制を、福祉・子育て・医療・教育・民間団体等と連携しながらどのように構築していくか、また相談者が「たらい回し」にならない支援体制をどう整えるかという視点が必要であると考えます。
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分科会「困難女性支援におけるフェミニストカウンセリングの役割」報告書
池橋氏登壇
続いて、内閣府男女共同参画局 男女間暴力対策課の池橋氏より、「DV被害者支援及び加害者対策について」の報告が行われました。
まず、DV被害者支援における保護命令制度について説明がありました。保護命令の申立てに際しては、裁判所が警察署や配偶者暴力相談支援センター等に対し、相談記録等の書面提出を求める場合があること、また近年は保護命令件数が増加傾向にあり、令和5年度から令和6年度にかけても増加している状況が示されました。
保護命令には、「接近禁止命令」「退去命令」「電話等禁止命令」などがあり、違反した場合には罰則が設けられていることも説明されました。特に近年の法改正では、GPS機能付き端末や紛失防止タグ等を用いた位置情報取得による監視行為への対応も進められており、令和7年12月施行予定の改正内容についても紹介がありました。加害者によるデジタル機器を利用した追跡行為への対策強化は、現代的課題への対応として重要であると感じました。
また、「DV相談プラス」についても説明がありました。DV相談プラスは、電話のみならず、SNSやチャット等を活用し、多様な相談方法に対応する国の相談事業であり、自治体窓口が閉まっている時間帯でも相談できる体制を整えています。相談内容に応じて、必要があれば警察や地域支援機関へつなぐ役割も担っているとのことでした。被害者にとって「すぐに電話することが難しい」「声を出せない」状況がある中、チャット相談等の導入は支援へのアクセス向上に大きく寄与していると感じました。
さらに、DV防止法に基づく「法定協議会」についても説明があり、行政機関だけでなく、民間シェルター等の民間支援団体も構成員として参加できる仕組みとなっていることが紹介されました。現場支援のノウハウを持つ民間団体を制度的に位置付け、連携を強化していく方向性が示されていました。
加えて、DV加害者への対応として、「加害者プログラム」についても言及がありました。これまで主に民間団体が取り組んできた加害者更生プログラムについて、財政支援が可能となったことが紹介され、再発防止の観点からも加害者対策を支援施策の一部として位置付ける必要性が示されました。
今回の報告を通じ、DV被害者支援は被害者保護だけでなく、相談アクセスの多様化、官民連携、加害者対策まで含めた総合的な取組が求められていることを実感しました。特に、SNSやチャット相談など若年層も利用しやすい相談手段の整備や、民間団体との継続的な連携体制の構築は、今後自治体においても重要な視点になると考えます。
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分科会「困難女性支援におけるフェミニストカウンセリングの役割」報告書
丹羽麻子氏登壇
続いて、認定フェミニストカウンセラーの丹羽麻子氏より、「困難女性支援におけるフェミニストカウンセリングの役割」について、現場実践を踏まえた報告が行われました。
丹羽氏は、女性支援法に基づく支援において重要なのは、単発的な相談対応ではなく、「回復のプロセスを地域の中で孤立させないこと」であると述べました。DVや虐待、生活困窮、精神的不調など複合的な困難を抱える女性に対しては、相談時のみの支援では不十分であり、本人の回復過程に寄り添い続ける地域支援体制が必要であるとの指摘がありました。
また、支援体制については、「困難女性支援に係る支援体制イメージ図」など、関係者間で共有できる“見える化”が重要であるとの説明がありました。特に、支援制度に詳しくない管理職や関係機関担当者に対しても、図式化された資料があることで支援の全体像が理解されやすくなるとのことでした。
その際、「白か黒か」で切り分けるのではなく、支援にはグラデーションがあることを図の中で表現することが大切であるとの話が印象的でした。支援対象者の状態は固定的ではなく、回復や悪化を繰り返しながら変化していくため、制度や支援側にも柔軟性が求められるという視点です。
さらに、相談現場で把握した市民ニーズや地域課題を、単なる個別ケースとして終わらせず、「文字として残す」重要性についても言及がありました。相談業務の一環として「相談分析ワークショップ」を位置付けることで、相談員自身が課題を整理し、地域課題を“見立てる力”を持てるようになるとのことでした。
相談対応は個人技になりやすいものですが、記録と分析を積み重ねることで、地域全体の課題把握や政策提言につながる可能性があるという視点は大変参考になりました。
また、現場で感じた課題については、支援者側が「言葉にして伝え続けること」の重要性も強調されました。制度の狭間に置かれている人や、既存制度では十分に対応できない実態について、行政へ継続的に発信し、「理解のある市町村職員を味方につけること」が、地域支援を前進させる鍵になるとの話がありました。
今回の報告を通じ、困難女性支援では、制度そのものだけでなく、現場で得られた声や相談記録を分析し、地域課題として可視化していく視点が重要であると感じました。また、相談員の専門性向上や、行政と民間支援者との信頼関係づくりも、継続的支援の基盤になると考えます。
蕨市においても、個別相談の積み重ねを地域課題として整理・分析し、支援体制の改善や政策形成へつなげていく視点が必要であると感じました。
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分科会「困難女性支援におけるフェミニストカウンセリングの役割」報告書
河野氏登壇
最後に、認定フェミニストカウンセラーの河野氏より、困難女性支援における地域の居場所づくりと、中長期的支援の重要性について報告が行われました。
河野氏は、DVや性暴力、生活困窮などの被害を受けた女性たちは、暴力そのものだけでなく、その後の「孤立」や「分断」によってさらに追い詰められていく現実があると指摘しました。
家族、地域、経済、人間関係など様々なつながりを失った結果、「誰にも相談できない」「どこへ行けばよいかわからない」という状態に置かれる人も少なくないとのことでした。
そのため支援においては、「そこに行けば誰かがいる」と思える“居場所”を地域の中に作ることが重要であるとの話がありました。単に制度につなぐだけではなく、安心して立ち寄れる場所、人との関係性を回復できる場所を持つことが、回復支援の土台になるという視点です。
また、フェミニストカウンセリングの視点からは、被害者個人の問題として矮小化するのではなく、社会構造やジェンダー不平等の視点を持ちながら支援を行う必要があると説明されました。
被害女性を「弱い人」「支援されるだけの人」として扱うのではなく、その人自身の力や主体性を回復していく関わりが重要であるとの話が印象的でした。
さらに、支援は短期間で完結するものではなく、中長期的に継続していく必要があること、そのためには行政や民間団体が連携し、国の財源も活用しながら、継続可能な支援体制を構築していくことが求められるとの提起がありました。
今回の報告を通じ、困難女性支援では、緊急保護や一時的支援だけでなく、その後の孤立防止や地域での居場所づくりが極めて重要であると感じました。また、支援を「点」で終わらせず、長期的な伴走支援としてどう地域に根付かせるかが、今後の自治体施策において重要な課題であると考えます。
蕨市においても、相談窓口だけではなく、安心してつながり続けられる地域の居場所づくりや、民間団体との継続的連携について検討していく必要性を感じました。
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分科会「困難女性支援におけるフェミニストカウンセリングの役割」質疑応答報告
質疑応答では、女性支援法に基づく支援体制の実効性や、地域における伴走支援、若年女性支援の課題等について活発な意見交換が行われました。
まず、女性支援法に基づく支援においては、「最初から最後まで伴走するキーパーソン」の存在が重要であるとの意見が出されました。支援対象者は複数の制度や機関を横断するケースが多く、相談者自身が制度を整理しながら支援を受け続けることは難しい状況にあります。そのため、継続的に関わる支援者の存在が回復支援の鍵になるという指摘でした。
また、女性支援法では自治体に「基本計画」の策定が求められていますが、「誰が、どのように作り、誰が関わっていくのか」を市町村ごとに整理する必要があるとの話がありました。制度が存在していても、実際に「やろう」と動かす人の存在が重要であり、行政内部で推進役を担う職員や管理職の存在が施策前進の大きな要素になるとの意見が印象的でした。
さらに、「切れ目のない伴走支援」の難しさについても議論がありました。例えば、福岡で支援を受けていた人が東京へ移動した場合、福岡の相談員が継続して直接支援することは制度上容易ではありません。そのため、自治体や関係機関を横断して支援を引き継ぐ「支援調整会議」の必要性が示され、現在その体制づくりや研修が進められているとの説明がありました。
また、池田氏からは、「支援調整会議は都道府県主体で進めてほしい」との意見も出されました。
民間シェルターについては、栃木県で30年間活動している民間シェルターの実践例が紹介され、地域の中に多様な“社会資源”を作る必要性が語られました。特に、DVや性暴力被害を受けた女性にとって、「住む場所」と「生活資金」が大きな課題であり、緊急避難後の生活再建支援が極めて重要であるとの指摘がありました。
また、丹羽氏・河野氏への質疑では、若年女性が暴力やハラスメントに“慣らされてしまっている”現状について意見が交わされました。
「殴ることだけが暴力ではない」という認識が社会に十分浸透しておらず、高校で教師からセクシュアルハラスメントを受けても、「そういう先生だから」「よくあること」と周囲に流されてしまうケースがあるとのことでした。さらに、「学校に合わないなら辞めた方がいい」と言われ続けてきた女子生徒たちの存在や、その状況を男子生徒も見て育っているという指摘は、ジェンダー観の再生産という意味でも重要な問題提起でした。
加えて、経済的DVの影響により、進学を諦めざるを得ない女性がいることや、教師から生徒へのセクハラが依然として存在している実態についても共有されました。
こうした状況を受け、現場では「できることから始める」という考え方で、月1回程度、若年女性が安心して集まり話せる場づくりを行っているとの実践報告もありました。支援は必ずしも大規模事業である必要はなく、「気軽に来られる場」が重要であるという話が印象に残りました。
また、今後の支援の方向性として、国の「セーフティネット強化支援事業」などを活用し、民間シェルター等への財政支援を行う仕組みについても言及がありました。一方で、補助制度は「新規事業」が対象になりやすく、既存活動の継続支援にはつながりにくい課題もあるとの指摘がありました。実際に支援を行う中で見えてくる課題も多く、まずは小さく始め、現場から学びながら支援を積み上げていくことの重要性が共有されました。
今回の質疑応答を通じ、困難女性支援では制度整備だけではなく、「伴走する人」「安心して集まれる場」「地域で支援を継続できる仕組み」が不可欠であることを改めて感じました。また、若年層へのジェンダー教育や暴力予防教育の必要性、行政と民間支援団体の継続的な連携の重要性についても深く考えさせられる内容でした。